筋肉の量を決める要因として忘れがちなのが、食事からの蛋白質の摂取量だ。筋肉=肉(蛋白質)なので、いくら運動をしても蛋白質を十分に摂取していなければ筋肉は増えない。しかし、多くの高齢者は必要量を摂っていないと聞く。毎日の食事でどのくらいのたんぱく質を摂れば筋肉減少の予防に十分なのだろうか
Curr Opin Clin Nutr Metab Care 12, 86-90, 2009
Dietary protein recommendations and the prevention of sarcopenia
2.高齢者の蛋白摂取推奨量は増やすべきか?
蛋白摂取推奨量は、若年成人を対象とした短期間の研究結果をもとに体重1kgあたり1日0.8gと定められた。この推奨量では高齢者の筋肉減少症予防には不十分とする研究結果もあり、議論されている。
参考になる研究としては、米国で行われたHealth ABC研究(Am J Clin Nutr 87, 150, 2008)がある。この研究では、70歳代の男女2732名を3年間追跡し、蛋白質摂取量と除脂肪体重(脂肪組織以外の重さを意味し、筋肉重量の指標に用いられている)の関連を調べた。
蛋白質のうち植物性蛋白質の摂取量の違いは、除脂肪体重の減少にあまり影響しなかった。
一方、動物性蛋白質摂取量が多いほど除脂肪体重の減少が少ないことが観察され、1日約0.4g/kg体重の人達の除脂肪体重の減少量は3年間で約0.9kgだったのに対し、1日約0.8g/kg体重の人達は約0.5kg減少にとどまった。
筋肉蛋白合成促進の観点からは、必須アミノ酸のバランスが悪い植物性蛋白質はそれほど重要ではなく、必須アミノ酸のバランスが良い動物性蛋白質の摂取量を重要視したほうが良い。
Health ABC試験結果で最も動物性蛋白質摂取が多かった人たちと同レベルに動物性蛋白質を1日0.8g/kg 体重摂るとすると、体重60kgの人の場合は1日48gなので、食事ごとに蛋白質16g(生の魚や肉として約80g、焼き魚や焼き肉として約64g)を摂るのが一番望ましい。
平成26年国民栄養調査結果(抜粋)を下の表に示した。20歳以上の各年代で平均蛋白摂取量はあまり変わらないのがわかる。18歳以上の人の1日当たりの推奨蛋白摂取量は男性60g、女性50gなので、大部分の人は推奨量を満たしており、一般に言われている「高齢者は蛋白摂取が少ない」ということは無さそうだ。
ただ、推奨蛋白摂取量に達しない人も一定の割合でいるので、このような高齢者の方が障害を発生しやすい可能性はある。
平成26年国民栄養調査における蛋白質摂取量の平均値(抜粋) | ||||||
年齢(歳) | 蛋白質摂取量(g/日) | うち動物性蛋白質(g/日) | ||||
30-39 | 65.9 | 35.7 | ||||
60-69 | 72.7 | 38.2 | ||||
70以上 | 66.4 | 34.3 | ||||
ところで、何事にも反証があるもので、肉・魚類の摂取量が少ないはずの僧侶は昔から健康で長生きとされている。その理由は様々に考察されているが、僧侶の生活様式(歩く、声を出す、ストレスが少ない?)は、蛋白摂取量の多少が問題にならないほどに長寿にふさわしいということのようである。
ここで取り上げた蛋白摂取量も、万人向けというわけではなく、普通の生活をしている人達のための基準ということになるのだろうか。