筋肉の量を決める要因として忘れがちなのが、食事からの蛋白質の摂取量だ。筋肉=肉(蛋白質)なので、いくら運動をしても蛋白質を十分に摂取していなければ筋肉は増えない。しかし、多くの高齢者は必要量を摂っていないと聞く。毎日の食事でどのくらいのたんぱく質を摂れば筋肉減少の予防に十分なのだろうか
Curr Opin Clin Nutr Metab Care 12, 86-90, 2009
Dietary protein recommendations and the prevention of sarcopenia
1.若年者と高齢者が同じ食事をしたとき、筋蛋白合成量も同じか?
高齢になると基礎代謝などが低下してくるし、筋肉量も減ってくるので、筋蛋白合成量も減ってくるようなイメージがある。だが、意外なことに蛋白質を摂取後の筋蛋白合成量は若年者と高齢者で変わらないという研究結果が多い。
一方で、蛋白質と糖類を一緒に摂取した場合では若年者に比べて高齢者の筋蛋白合成量は低下することが知られている。
糖類を摂取するとインスリンが分泌されて血糖値を下げるだけでなく、筋肉に作用して筋蛋白合成も刺激する。しかし、高齢者ではインスリンに対する感受性が低下するようになり、インスリンの効果が弱まっていることが原因と考えられる。
それでは、高齢者のインスリン感受性低下を改善する方法はないだろうか?
高齢者に45分間散歩させたところインスリン感受性が上がり、蛋白質+糖類摂取による筋蛋白合成量が若年者と同程度まで回復したとの報告があることから、運動するなど身体活動量を高めることにより筋肉のインスリン感受性を高めることは、食事摂取後の筋蛋白合成に重要である。
以上をまとめると、筋蛋白合成能力自体は高齢になっても低下しないのだが、インスリン抵抗性を示すようになるとその分だけ刺激を受けにくくなって、食後の筋蛋白合成量は若年者に比べて低下する(蛋白質のもととなるアミノ酸の血中濃度が高い食後は、筋蛋白合成にとって重要な時間帯である)。食事の前に運動するなど体を動かせばインスリン感受性が増して、若年者と同程度にまで回復できることが示されている。