ロコモ予防のためには適度な運動することが推奨されている。
ところが、どの程度の運動を、どのような頻度で行えば“適度な運動”といえるのだろうか。また、心臓病、骨粗鬆症関節症などの持病があるために十分に運動できない場合は、運動量をどの程度に減らすべきだろうか。この肝心な点について触れていない指針が多いような気がする。
アメリカスポーツ医学会(ASCM)とアメリカ心臓学会(AHA)は合同で高齢者に対する指針を出していて、十分に運動ができないような持病を持つ高齢者の運動量の目安についても提言している。
Circulation 116, 1094-1105, 2007
Physical activity and public health in older adults
この指針は65歳以上の全ての成人と50-64歳の臨床上明らかな(適切な診療・治療を受けている又は受ける必要がある)慢性疾患または身体活動に制限のある成人に適用される。
運動は有酸素運動、筋力強化運動、柔軟運動、バランス運動の4種類があり、各々の運動についての指針が作成されている。
このうち有酸素運動と筋力強化運動については健康維持に有効であるとの研究結果が出されている。一方、柔軟運動とバランス運動も直感的には身体動作に効果がありそうだが、まだ研究が少なく、怪我や転倒防止の効果があるかは確実な証明がなされていない。
この指針での運動の強度は次のようになる。
・「中等度の運動」 - 心拍数や呼吸数の増加が認識できるような運動。
・「激しい運動」 - 100%全力を尽くすほどではないが、心拍数や呼吸数が大きく増加するような運動。
この指針での運動強度は運動の絶対量ではなくて、個人に身体にかかる負担(心拍数や呼吸数の変化)を基準にして決めるので、同じ量の運動でも個人の体力レベルに応じて運動強度は異なる。例えば、「中等度の運動」はある人にとってはゆっくり歩くことであるし、別の人にとっては早歩きが該当する。
運動は中等度の運動で十分なので、自分の体力レベルに合わせて、心拍数や呼吸数が増えると感じる程度の運動を所定時間すればよい。激しい運動は運動能力が高い、一部の高齢者のみが対象となる。
1.有酸素運動
有酸素運動とは、腕・足・上半身などの大きな筋肉を一定のリズムで、ある程度長時間動かす運動で、歩行、自転車、水泳などが該当する。
健康維持のために、中高年では中等度の運動を最低限1日30分、週5日、または激しい運動を1日20分間週3日行う。
これらの運動は、日常生活に伴う軽作業(料理や買い物など)や10分以内の中等度の活動(家の周りの散歩など)に追加して行う。
2.筋力強化運動
筋力強化運動は、重りなどの重量やバネ・ゴムなどの抵抗を負荷して行う運動が該当する。
筋力及び持久力を維持、向上させる運動を一週間に2日以上行う。
筋力を最大限に増やすためには、大きな筋肉に対して10-15回繰り返せるように重さを負荷して8-10回の運動を繰り返す。この運動を週2日以上おこなう。運動をする日は連続せずに、1日以上間隔をあける。
疾患などの問題がなければ、運動量を増やすことに問題はない。
3.柔軟運動
有酸素運動や筋力強化運動とは違い、柔軟運動が健康に有用であると未だ証明されていない。さらに運動による怪我を防止するかについても確定的でない。しかしながら、日常の身体活動に必要な可動域を維持するのに柔軟運動が推奨されている。
各々の大きな筋肉や腱に対して10-30秒間のストレッチを3-4回繰り返すとして、約10分間以上の柔軟運動をすることが勧められる。
有酸素運動や筋力強化運動をする日は常に柔軟運動をすることが望ましい。
4.バランス運動
何らかの運動するだけでも転倒リスクを35-42%減らすことができるが、歩行障害などの転倒リスクを有する場合は、体勢バランスを保つ運動を行う。
週3回のバランス運動が転倒事故を減らしたという一連の4つの転倒防止試験が報告されているが、バランス運動に関する研究がまだ少なく、好ましいバランス運動の種類、時間、頻度などは明記されていない。
この指針を読むと、散歩程度の軽い運動でも十分であり、筋力維持を目的にするならば激しい運動は必要ないことがわかる。もう少し体力をつけたいと思う人は、自分の体調に応じて少し激しいと自覚している運動を加えればよい。また、これまで運動してこなかった人が新たに始める場合は運動量を少なくして開始し、各人の体力や体の状態に合わせて徐々に増やしてゆくのが良い。
ただ、この指針に適うためには、適度な有酸素運動なら1日30分を週5日が勧められているので、感覚的にはほぼ毎日運動する必要がある。つい忘れて三日坊主になってしまいがちなので、運動を実施するに当たっては、どのタイプの運動をいつ、どれだけやるかを書いた計画を作ることを指針では勧めている。