運動して筋肉を増やすのはよいが、せっかく増やした筋肉は落としたくない。落としたくないといっても、筋肉を維持するために毎日トレーニングを続けるのはかなり辛い。毎日トレーニングする必要があるのだろうかと疑問(怠け心)も湧いてくる。はたして、どの程度の頻度でトレーニングをすれば筋肉を維持できるのだろうか。
J Gerontol Biol Sci 57A, B138-B143, 2002
Maintenance of Whole Muscle Strength and Size Following Resistance Training in Older Men
試験対象者として、非肥満、正常血圧、非喫煙、医薬品を服用しておらず、かつ、運動習慣がなく、最近1年間は重量負荷運動をしていない10名を選んだ。平均年齢は72±4歳。
筋力強化運動として、大腿四頭筋に対する重量負荷運動を12週間実施した。重量負荷運動の内容は、膝の最大伸展力(曲げた膝を延ばす力の最大値)の80%の重りを負荷し、2-3秒かけて両足を上げ下げする運動を10回繰り返し、これを1セットとして2セット行った。セット間には2分の休憩を取った。重量負荷運動は1-2日あけて週3回実施した。2週間ごとに最大伸展力を測定し、負荷する重量を調整した。
12週間の筋力強化運動が終了後に被験者を5名ずつ運動継続群(平均年齢75±1歳)と脱運動群(平均年齢69±1歳)の2群に分け、運動継続群は週1回3セットの同じ重量負荷運動をさらに24週間継続した。脱運動群には運動を施さずに元の生活に戻ってもらった。膝の最大伸展力を4週間ごとに測定した。
大腿部の筋肉量はCT写真から測定した。
まず、筋力を上げるのに必要な重量負荷運動の頻度については、週1回よりも週3回の運動の方が高い結果が得られていることから、今回の試験では週3回運動を施した。(Hanssen KEらの研究では、肩の筋力を上げるには週1回の重量負荷運動で十分であった。 Scand J Med Sci Sports 23, 728-739, 2013)。
試験開始前、12週間の筋力強化運動終了時および36週後の試験終了時の右膝最大伸展力と右大腿筋肉量を下の表に示した。
大腿部断面積 | ||||
運動継続群 | 脱運動群 | |||
開始前 | 141.8±9.7 | 126.7±10.2 | ||
12週後 | 151.6±8.1 | 134.8±10.1 | ||
36週後 | 150.5±8.2 | 127.9±9.4 | ||
変化率(1週vs12週、%) | 7.4±2.3 | 6.5±1.1 | ||
変化率(12週vs36週、%) | -0.7±0.9 | -5.0±0.8 | ||
右膝の最大伸展力 | ||||
運動継続群 | 脱運動群 | |||
開始前 | 66.1±9.5 | 50.0±6.0 | ||
12週後 | 93.7±10.0 | 74.2±6.5 | ||
36週後 | 96.0±11.4 | 66.1±5.8 | ||
変化率(1週vs12週、%) | 45.2±10.5 | 52.5±10.7 | ||
変化率(12週vs36週、%) | 2.0±1.4 | -10.8±1.4 | ||
普段運動をしていない約70歳の男性でも重量負荷運動によって右大腿部筋肉量が平均7%増加し、膝の最大伸展力は20~90%、平均で約50%増加した。十分な運動をすれば考えているよりも筋力を増やせるものである。
もっと高齢の90歳でも重量負荷運動により筋力が増えるとの報告もあり(JAMA 263, 3029-3034, 1990)、高齢になっても運動に対する筋肉の応答能力は維持されていることが示された。
12週間の筋力強化運動後に週1回の運動に変えた運動継続群では、24週間たっても筋肉量と筋力はほぼ維持できていた。
一方、運動をやめた脱運動群では筋肉量は試験開始前にほぼ元に戻ったが、筋力は試験開始時に比べて約30%高いままであった。これは筋力強化運動により運動神経機能や筋肉繊維の収縮活性が向上した結果、筋肉の単位重量当たりの筋力が上がったためと考えられる。
今回の試験から、筋肉量および筋力維持の観点からは、週1回は少し激しい運動をする必要があることが明らかになった。
また、トレーニングで増えた筋力が落ちる速度はそれほど速くなく、全く運動しなくても元に戻るまでに6カ月以上かかることが示された。この筋肉量と筋力が元に戻る速さの違いについては仮説がいくつか提出されているので、後日考察したい。