筋肉量が一番多くなるのは40代か?

 

 ヒトが一生のうちで筋肉量が一番多くなるのは何歳ごろだろうか。ロコモの論文には20歳代前半から徐々に筋肉量が減少すると書いてあるし、私もそのようなイメージを持っていた。それなら、20代の頃より体重が減った30-40代の人も多そうだが、そのような話はほとんど聞かない。実際には年齢とともに筋肉量がどのように変化してゆくのだろうか。日本人における各年齢層での筋肉量を測定したのが下記の論文である。

 

日本人筋肉量の加齢による特徴

日本老年医学会誌 47, 52-57, 2010

 

 筋肉量の加齢による変化には人種差が知られていることから、日本人での調査が必要である。そこで、18歳以上の男性1702名、女性2301名の上肢、下肢および体幹部の筋肉量をマルチ周波数体組成計を用いて測定した。

 

 筋肉量は身長と体重に影響されるが、妥当性が確認された補正法がないため、無補正の実測値をデータ解析に用い、年齢との関連を調べるために10歳ごとの年齢層に分けて解析した。下の表には18-24歳、45-54歳および75-84歳の結果のみを抜粋して示した。

  なお、今回の研究は自力で測定施設に来ることができる人が対象なので、高齢者の値は母集団全体の値よりも大きい可能性はある。

                 
      男性     女性    
    年齢   18-24  45-54  75-84  18-24  45-54  75-84  
    例数   434   135   191   309   164   267  
    身長  171.3   169.6   160.5   159.2   157.2   148.2  
    体重   64.2    68.9    58.2    51.9    53.5    50  
  筋肉量(kg)              
    上肢    5.5    5.5    4.5     3.3     3.4    3.0  
    下肢   20.7   19.0   14.6   14.5   12.8   10.4  
    体幹部   26.2   28.2   24.9   18.7   20.3   19.1  
    全身   52.5   52.7   43.9   36.4   36.4   32.4  
                 

 各年代の身長、体重は平成16年国民健康栄養調査の結果と近似しており、本研究の対象者は平均的な日本の集団から偏ったものではなかった。

 

 一口に“筋肉”といっても、年齢による消長は部位の違いにより大きく異なる。上肢(腕)筋肉量は男性は50歳代、女性は60歳代までほぼ変化がないし、体幹部筋肉量は男性では45歳ごろ、女性では50歳ごろまで緩やかに増加している。腕や体幹の筋肉は高齢になるまでかなり維持されていることが明らかとなった。

 

これに対して、下肢(足)筋肉量は20歳前後に最大に達し、その後徐々に減少し始め、50歳以降は大きな割合で減少した。

これらを合計した全身筋肉量が最大になるのは40歳前後という結果となった。

 

 20歳代以降に疲れやすくなったと感じる人が多いが、疲れやすくなることと体幹部または全身の筋肉量とは関係ないようだ。筋肉の質や細胞の代謝速度など、筋肉量以外の要因が疲れやすさに関与しているのだろう。

 

 高齢者では歩行や階段昇降などの下肢筋力を必要とする移動能力が他の機能より先行して障害されるが、「老化は足から」と言われるとおり、下肢筋肉量が他の部位の筋肉よりも早い時期から減少することが示された。

 ロコモ予防の観点からは、下肢の筋肉量(筋力)維持に重点を置くのがよさそうだ。