運動を始めるのに遅すぎることはない(3)

 

 前回の論文で、30-70歳の人が新たに運動を始めることが健康維持に有効であることが示された。この論文では、もっと高齢の70歳以上の人が新たに運動を始めても効果があるか否かを検討した。

 

J Gerontol Med Sci 61A, 1157-1165, 2006

Effects of a physical activity intervention on measures of physical performance: Results of the lifestyle interventions and independence for elders pilot (LIFE-P) study

 

 対象は70-80歳の男女(平均年齢は76.8歳。女性が全体の68.9%)で、運動する習慣がなく(運動は通常週20分未満)、途中で座ることなく補助器具なしで400m15分以内で歩け、かつ、SPPBスコア(*)が9点以下の人達。重症心疾患・肺疾患、癌に罹患している人は除外している。

  対象者を2群に分け、1年間にわたり一方には運動指導、もう一方には健康教育を施し、SPPBスコアの変化を調べた。

 

 運動指導群には、最初の2か月間は医療機関の監督のもとに持久力、筋力強化、柔軟運動を週3回、3-6か月目までは監督下の運動を週2回と自主運動を週3回行うよう指導し、7-12か月目は週150分間の歩行を目標とした自主的運動とした。また、月1回は施設からの電話で運動実施の動機づけを施した。

 

 健康教育群には、健康に関する注意、栄養、医療、足の健康に関する講習と月一回のニュースレターを送付した。

 

試験開始6ヶ月および12ヶ月後のSPPBスコアと400m歩行速度は下の表のようになった。

             
       開始前 6ヶ月後 12ヶ月後  
             
  身体活動による消費 運動指導群  655±1033 1284±1343 1001±1084  
  カロリー(Kcal/週) 健康教育群  596±903 772±1189 710±978  
             
  SPPBスコア 運動指導群  7.5 8.7 8.5  
    健康教育群  7.5 8.0 7.9  
             
  400m歩行速度 運動指導群  0.86 0.87 0.85  
  (m/秒) 健康教育群  0.86 0.84 0.82  
             

 運動を強制されない自主運動に移行して6ヶ月経過した試験開始12ヶ月の時点でも、運動指導群は運動による消費カロリーが依然高く、一度身についた運動習慣は維持されていることが伺われた(自主運動期間中の実際の歩行時間は138分で、目標の週150分をほぼ達成していた)。

 

 一方、健康教育群では20-30%の消費カロリー増加にとどまり、知識を得ただけで運動を習慣づけるのは難しそうである。

 

 日常生活での歩行障害リスクの指標となる400m歩行速度は、健康教育群では徐々に遅くなっていたが、運動指導群ではほぼ同じ速度を維持しており、歩行障害となるリスクが増大していないことが示唆された。

 

 これまで運動をしてこなかった70歳以上の高齢者でも運動の習慣を新たにつけることにより、運動障害発生のリスクを下げることが期待できた。この試験のように、1日約20分の歩行を心がけるのはいかがでしょうか。  

 

どのように運動を習慣づけるかが一番の課題なのだろうけれども、この記事を読んで些かでも運動することを意識してもらえれば幸いである。

 

SPPBShort Physical Performance Battery)スコアとは下肢の運動機能を測定する標準的な方法で、立位バランス、歩行速度、椅子から起立する速度をスコア化し、各試験を0-4点で評価する方法で、最高の運動機能を有していると12点となる。

 

 SPPBスコアは、障害を持たない高齢者の将来の介護入院、有病率、死亡率、障害の発生の予測因子となることが知られていて、0-6点は低パフォーマンス、7-9点は標準パフォーマンス、10-12点は高パフォーマンスに分類される。

 

詳しい試験の方法は、以下のサイトを参考にしてください。簡単に自分の点数が測れるので、興味ある人はお試しください。 http://kamomoka0415.blogspot.jp/2012/04/sppb.html