運動を始めるのに遅すぎることはない(1)

 

 身体活動や生活習慣が慢性疾患や寿命と関連することが知られている。でも、世の中には運動をあまりしない人の方が多いはずだ。そういった人達が中高年期から運動を始めたとして、健康にどの程度の効果があるのだろうか。

 

30代以降に生活習慣を変えることにより健康を増進できるかについて調査した論文です(この論文では喫煙や肥満などと健康の関連も調査していますが、説明は割愛しました)。

 

N Engl J Med 328, 538-545, 1993

The association of changes in physical-activity level and other lifestyle characteristics with mortality among men

 

 ハーバード大学の卒業生で、1962年(または66年)および1977年の生活習慣調査に回答した男性10,269名(1977年の時点で45-84歳。心臓病や癌など運動が制限される者は除外)について8年後の1985年における死亡率との関連を調査した。

 

 身体活動量(1週間当たりの歩行距離および昇る階段数、運動量など)、喫煙、血圧、BMI(肥満度を表す体格指数)を質問票に回答する形式で調査した。

 

 今回の調査では対象者の年齢層が広いので、年齢を調整した後の死亡の相対危険度と1977年における生活習慣との関係は次のようになった。( )が相対危険度の数値。

           
  歩行距離(km/週) 4.8未満 4.8~14.4 14.4以上  
  相対リスク 1 0.90 0.78  
  上る階段数(段/週) 400未満 400~1100 1100以上  
  相対リスク 1 0.80 0.67  
  スポーツ・作業 しない 軽い作業のみ 適度に激しい運動  
  相対リスク 1 1.33 0.78  
  適度に激しい運動(時間/週) 0 0-2時間 3時間  
  相対リスク 1 0.68 0.50  
  身体活動指標(Kcal/週) 500未満 500~3499 3500以上  
  相対リスク 1 0.70~0.68 0.50  
           

 

 この結果から次のことが言えると思う。

1)歩くことでもある程度の健康維持効果が期待できる。効果を出すためには12km以上歩きたい。

 

2)階段を上がることは意外と激しい運動になり、階段を160段以上昇るのと2km歩くのと同じくらい効果があった。運動する時間がなかなか取れない人は、階段を昇る習慣をつけるのはいかがだろうか。

 

3)作業とは家事、園芸、日曜大工などのことで、明確な効果はないようである。これらの作業はどちらかというと上半身を多く使う活動という印象である。健康維持効果をもたらすためには、足を動かす必要があるのかもしれない。

 

4)適度に激しい運動を十分に行い、活動的で消費カロリーが多い人は、安静にしている人に比べて死亡リスクが半分にまで減っている。(適度に激しい運動を実践したい人のために、テーマに後日取り上げる予定です)

 

なお、調査期間中に死亡した人は476名で、死因別に解析したところ、活発な身体活動は心臓・冠動脈疾患ばかりでなく、癌や外傷(事故死が大部分と推測)による死亡リスクも同様に減らすことができると考えられた。