筋肉減少症の発症機序

 

Aging Research Reviews 9, 369-383, 2010

 

Models of accelerated sarcopenia: Critical pieces for solving the puzzle of age-related muscle atrophy

 

一般的に、50歳代から80歳代までの間に筋肉(骨格筋)が約30%減少するとされている。骨格筋の重さは体重の約半分なので、筋肉の減少だけで体重が約15%減ることになる。

 

同じ体重をずっと維持できていると喜んでいたら、実際は筋肉が減って、その分だけ脂肪が増えていたということもあるので気をつけなければ。

 

筋肉細胞の内部では常に筋蛋白質の合成と分解がなされていて、そのバランスが保たれれば筋肉量が維持される。しかし、加齢により次のような変化が生じてくる。

 

加齢により、筋蛋白質合成の面では

   ①食後の筋蛋白合成の減少

②蛋白同化ホルモン(蛋白質合成を増やす作用がある男性ホルモン、IGF-1など)が減

  少

③衛星細胞(筋肉細胞へ分化する細胞)の増殖能の低下

などの原因により筋蛋白合成が低下する。

 

また、筋蛋白分解の面では

①酸化ストレス(活性酸素)の増加

②炎症性ホルモンの増加

などが原因で筋蛋白分解が亢進する。

  ↓

 その結果、筋蛋白を分解する方向にバランスが傾き、筋肉量が減少する。

 

 筋蛋白質の分解は筋肉量・筋力の減少として表れ、これが進行すると例えば400m程度を歩けない、バランスを崩して転倒しやすくなる(骨折の危険性の増大)などの要介護となるリスクが高まる。筋肉減少症(サルコペニア)と呼ばれる状態になる。

  

 筋肉量の減少が健康上の問題となるのは主に高齢者であるため、加齢との関連が注目されているが、それ以外にも栄養、運動、持病なども原因として関与している。

①栄養 -カロリーや蛋白質の摂取が不十分だと筋肉蛋白質合成が低下し、筋肉量が

減少する

②運動 -筋肉収縮の機械的刺激により、筋肉自身が筋肉量増加に作用するホルモン

を産生する 

③持病 -糖尿病、慢性心不全、抹消動脈疾患、慢性腎臓疾患、肝臓疾患などは筋肉

減少を促進する

 

筋肉量の調節には、これらの要因が占めるウェイトも大きいと思われ、 例えば、健常者がベッド上でほとんど動かない生活を送ると2週間で下肢筋力が15%低下したとの報告もある。

 

普段十分に運動していない高齢者の場合、筋肉量減少の要因は少なくとも加齢+運動不足であるので、運動することにより運動不足の要因をなくすことができれば、その分だけ筋肉量を増やせることになる。個人の努力によっても筋肉減少の進行を緩和できるのである。

 

 それでは、普通の生活を送っている場合に、年齢を経るに従い筋肉量はどのように変化していくものであろうか。次回は、その研究結果を調査したい。